医薬品等の制度改正に関する要望書

2011/11/24 ニュース by biotech

 

平成23年11月24日

厚生労働大臣 小宮山 洋子 殿

日本バイオテク協議会

会長 山田 英

医薬品等の制度改正に関する要望書 

~特に臨床研究助成及び新たな薬価算定方法の導入について~

バイオテク企業の使命は、革新的な医薬品、医療機器、遺伝子治療、再生・細胞医療、並びに生物学的製剤やDDSなどの新しい医療技術(以下、総称して「革新的医療技術」といいます。)の開発を通じて国民医療水準の向上に寄与するとともに、国際的に通用する革新的医療技術の創製がひいてはわが国医療産業の新たな振興に資するものであります。特に、難治性疾患や治療法がない疾病分野における革新的医療技術の開発は、それ自体社会の要請に直接応えるものであり、国民の理解と信頼を得られるものと確信しております。また、世界に先駆けて少子高齢化時代を迎えたわが国は、それに相応しい知識・技術集約型産業の創造と新たな雇用創出が望まれていますが、バイオテク企業もわが国の新たな成長戦略の一翼を担うべく鋭意努力しています。

しかしながら、わが国のバイオテク企業を取り巻く事業環境は大変厳しいものがあります。わが国においては、未だ米国のようなバイオテク企業の成功例がないこともありますが、背景にはベンチャーキャピタル等の積極的投資を促す環境が整備されていないこともあり、バイオテク企業にとって研究開発資金の調達の方途は、決して恵まれたものとは言えません。革新的医療技術の創製には高いリスクを伴うことから、特に「臨床試験に対する公的研究費の助成強化」と「新たな薬価算定方式の導入」の2点について、要望いたしますので、ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。

要望1 臨床試験に対する公的研究費の助成強化

臨床試験に関わる研究開発費助成金の可及的大幅増額予算確保と継続的増額助成対象は臨床開発初期治験(POC)に至るまでに必要な品質・毒性等の非臨床試験、並びに承認申請までに必要な臨床試験および製造方法・品質・規格(CMC)に関する試験研究。

治験活性化のためにはヒト、モノ、カネ、ハコの整備が必要です。ヒトは、治験に経験のある医師及びCRC、統計家などです。モノは、治験の対象となる革新的医療技術のシーズとしての開発候補品です。この開発候補品が治験の俎上に乗るためには、法令で定められた毒性試験及び原薬・製剤(あるいは機器、細胞など)の製造に関わる品質・規格や製造方法についての研究が必要です。また、開発品の生産の最適化を図るための製造方法の検討やプロセス開発も必要です。カネは研究開発費であり、ハコは治験のための施設です。これまで国はヒト、ハコの強化に注力してきたことで、相応の整備が進んできましたが、モノとカネについては全く手が着けられていないといっても過言ではありません。これが阻害要因となり、治療法がない疾病、患者数の少ない難病・希少疾病や悪性腫瘍や遺伝子疾患などの難病の治療薬・治療法の開発は、採算性の問題から製薬企業が国内での開発に二の足を踏む結果になっています。また、遺伝子治療や再生・細胞医療など日本発の新しい医療技術へのチャレンジも消極的にさせているといえます。

このような状況から、革新的医療技術創製のための研究開発費について、公的助成金の強化が強く望まれます。中でも臨床開発初期治験(POC)に至るまでに必要な品質・毒性等の非臨床試験、並びにその後の承認申請までに必要な臨床試験および製造方法・品質・規格(CMC)に関する試験研究のための公的助成はお粗末の限りであり、米国との大きな格差は革新的医療技術創製の国際競争力の観点から目を覆うべきものがあります。

日本発の革新的医療技術創製のためには、臨床開発に関わる研究開発費助成金を大幅に増額し、国自らがシーズの発掘からPOC、さらには臨床開発まで、積極的に支援していくことが望まれます。

要望2 新たな薬価算定法の導入

その1 運用の見直し

現行の薬価算定方式、特に原価計算方式の運用の見直し治療法がない重篤な疾患、難病・希少疾病の治療薬・治療法、未承認薬(開発要請品目)については、現行の薬価算定方法の特例として、開発企業の希望価格とその論拠を機軸にした算定を行う。

 

当協議会会員各社は、バイオテク企業として革新的医療技術の事業化を目指し、新薬開発や高度化医療技術開発に積極的に取り組んでいます。しかし、現行の医薬品の薬価制度などの保険償還価格の算定基準のもとでは、革新的医療技術に対する評価が十分反映されているとはいえず、例え事業化に至ったとしても、それまでの研究開発投資とリスクテークの見返りとして、相応のインセンティブを享受できるかどうかは最終的に薬価が決定されてみなければ分からないという課題を内包しています。

昨今の薬価算定方式改定の議論でも、薬価(単価)が高い薬剤は目立つからなんでもかんでも薬価を低く査定しようという意図が働いているようにも見受けられます。患者数も多く、市場規模の大きい生活習慣病治療薬に比べると、治療法がない、或いは患者数の少ない難病・希少疾病の治療薬、遺伝子治療や再生・細胞医療などの革新的医療技術は、患者が非常に少ないため売上高は桁違いに低いというケースもあります。生活習慣病治療薬は、薬価(単価)が数百円でも売上高は何百億円と巨額ですが、難病・希少疾病治療薬・治療法は、薬価が万単位であっても売上高はたかだか億単位ということが少なくありません。市場性が低く医療財政的にもほとんど影響がないにもかかわらず、薬価算定では開発企業の希望価格よりはるかに低い査定をする、もしくは保険使用に限定をつけるなどの、行政対応が見受けられます。これは未承認薬も同様であり、一方で開発要請をしながら薬価は別ということになります。アンメットの医療ニーズを満たすべく開発した企業の努力を無にし、徒に開発意欲を阻喪させるにしか過ぎません。これは明らかに不合理であり、本来日本発となるべき革新的医療技術開発の日本離れを引き起こし、日本における革新的医療技術開発の空洞化も懸念されます。

治療法がない重篤な疾患、難病・希少疾病の治療薬・治療法や未承認薬(開発要請品目)の場合は原価算定方式が適用されるわけですが、開発企業の希望価格とその論拠を機軸にした算定法を要望します。

平成22年度薬価改正で導入された「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」との関係についても言及せざるを得ませんが、これについては、その企業を支える十分な販売品目を保有する製薬企業の採算性を念頭にしたものであり、販売品目が少ないバイオテク企業にとって、新薬創出加算の恩恵をほとんど受けておりません。

その2 抜本的見直しについて

現行薬価算定方式は長年の継続的議論の中で改良を重ねてきたものであり、その抜本的見直しについては、さらなる議論の積み重ねが必要であると認識しております。ここでは論点の整理として、以下の2つを提案として記載します。

提案1

患者数の少ない難病・希少疾病の治療薬の薬価インセンティブの導入治療法がない重篤な疾患、難病・希少疾病の治療薬・治療法、未承認薬(開発要請品目)については、開発インセンティブが薬価算定の際に有効に働くよう、現行の原価計算方式を抜本的に見直しし、合理的な加算率を設定する。

 

前述のように、原価計算方式では、革新的医療技術の開発に対する多額で長期に亘る多額の研究開発投資と高い開発リスクのいずれも考慮されているとは言えません。現行の薬価算定方式は、出口戦略としての薬価が不透明なため、バイオテク企業にとっては常に経営リスクを内包していることになります。また、アンメットニーズの高い未承認医薬品の場合でも、国内での医薬開発・販売の採算が合わないにも拘らず、外国平均価格の調整がなされるなど、インセンティブどころか、むしろ開発意欲を阻喪する結果になっています。

患者数の少ない難病・希少疾病や悪性腫瘍や遺伝子疾患などの難病の治療薬を対象とするバイオテク企業にとって、有効な治療法がない分野への開発インセンティブが薬価算定の際に有効に働くよう、現行の原価計算方式を根底から見直し、合理的な加算率の底上げの検討を提案します。

提案2

医療費削減効果を反映する算定法の新設革新的医療技術について医療経済学、特に費用対効果の視点から医療費削減効果を評価し、価格(薬価)に反映する算定法を新設する。

 

現行の薬価算定方式とは別の新しい算定法として、革新的医療技術について医療経済学、特に費用対効果の視点から医療費削減効果を評価し、それをきちんと価格(薬価)に反映する算定法の新設を要望します。

当協議会会員を始めバイオテク企業の各社が事業化を目指す革新的医療技術の多くは、遺伝子治療や再生・細胞医療、並びに生物学的製剤やDDSなど新しい医療技術により、これまで治療法がなかった疾病、難病・希少疾病や悪性腫瘍や遺伝子疾患などの難病に対して福音をもたらすものであります。

高齢者社会の進展とともに社会保障費の上昇傾向を踏まえ、医療経済学の視点から革新的医療技術の医療費削減効果を新しい評価法として導入することで、現行の原価算定方式でカバーできない部分を補完し、かつ革新的医療技術の正当な評価につながることから、新たな革新的医療技術開発のモチベーションの昂揚と活性化につながるものと確信いたしております。もとより、革新的であればなんでも良い訳ではなく、希少疾病、難病や代替治療法がないなどの、合理的かつ限定的な条件を設けることが現実的であると思料しております。今後の高齢者社会において急増する社会保障費の抑制に貢献できる方法の一つとして、この新しい薬価算定法の早期導入の検討を提案します。

以上

【本件に関する問い合わせ先】

日本バイオテク協議会 

幹事長 関 誠(アンジェスMG)       電話 03-5730-2480

幹事長代理 菅谷 勉(ノーベルファーマ)     電話 03-5651-1160


タグ: 

コメントは受け付けていません。


Go Top